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お嬢様の願い

あなた如きが、私(わたくし)の願いを叶えるですって? あらあら、随分と自信過剰ですこと。
…無理よ、あなたには。いいえ、この世の何方にも、私の願いなど叶えられやしない…

私の願いは、もう一度あの方にお会いすること。
見つめてくださらなくてもいい。
抱きしめてくださらなくてもいい。
愛してくださらなくてもいい。
ただ、この視界にあの方を留めておきたい。
その微笑みを、そのお背中を、そのお声を…
それが叶えば、誰がどうなろうと構いやしない。例え、私自身が朽ち果てようとも…


ほら、ご覧なさい。あなたにはいくら願っても叶えられるものではないわ。
私の願いを叶えるなんて、たとえ神様でも無理な話。
…いいえ、違うわ。神様が、私からあの方を…私の全てを奪ったのよ…

どうしてあの方だったのですか?
あの方はとても優しく誠実で…そして、とても弱い方だった。
それに比べて私は、お金に物を言わせて好き勝手に生きてきた傲慢な人間。
どうして私ではなく、あの方を奪われたのですか?
あの方は…とても優しく誠実で…そして…とても弱い方だった。
絶望に負けて、ほんの少しの悪さを働いただけだったのに…
私の方が、よっぽど醜い姿を晒してきたというのに…

神様は、決して平等ではないのね。
私にはお金も地位もこの美貌でさえお与えくださったのに、あの方には何一つお与えくださらなかった。
それどころか、ただ一つの御霊でさえ、あなたは見るも無残に引き裂かれた…

それとも、これは私への罰なのですか?
驕り高ぶり、全てを手に入れようと、多くの人の心を踏み躙ってきた私への…

死へと導くよりも、もっともっと残酷な…

だとしたら、あなたは手段を誤られましたわね。
私がこのまま絶望の淵へと飲み込まれると思いだったのでしょうけれど。
生憎ですが、私はそれほど強くはありませんの。

ねぇ、あなた。 あなたに叶えていただきたい願いが見つかりましたわ。どうか、叶えてくださらないかしら。

あなたは仰った。私のどんな願いでも見事叶えて見せると…

でしたら、私をあの方の元へと連れて行ってくださいまし。
あの方をここへお連れ頂くのは、例え悪魔様でも無理な相談。
でしたら答えは一つ。…そう、私が赴くしかありませんわ。

…ほら、どうなさったの? そんなおかしな顔をしてないで、早く願いを叶えてくださいまし。

…私一人では、どうしてもあの方の元へ辿り着くことが出来ないの…
だから、お願いよ…私をこの闇から解放してくださいまし。

………ありがとう。

この言葉をあなたに向けるのは、これが初めてかしらね。
最初で最後…うふふ、よろしいのではなくて?
いつも醜い言葉で詰ることしか知らなかった私の最後の言葉が、あなたに向けての感謝だなんて…

これで少しは、あの方に近づけるかしら…同じ場所に、行けるかしら…


ねぇ…神様……

管理人朗読所要時間:5分

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